娯楽三昧

迷宮式娯楽三昧・全年齢版

魔法少女モノは文化の盗用で成り立つジャンルである

魔法少女を名乗る作品に魔法少女が登場することはない。
何故なら魔法少女を名乗っている時点でそれは魔法少女ではなく、ただ可愛らしいフリルの服を着せられた娼婦に成り下がるからである。


基本的に、一般的に魔法少女モノと呼ばれるものは、魔法少女という概念を借用して、別ジャンルの話をするために使われるジャンルコードだからだ。


そもそも魔法少女とはなにかといえば、女の子がかわいらしい姿に変身して物事を解決していくキュートの代名詞といえるイメージがある。
魔法少女モノは、そういった可愛らしさの象徴というイメージのある魔法少女たちに残酷であったり過酷な運命を背負わせる、「明るいメインカルチャー」に対する「カウンターとしてのサブカルチャー」だ。
そして、「魔法少女」と「魔法少女モノ」は似ているようで完全に別ジャンルである。


そもそも、魔法少女として頭に浮かぶイメージは多々あるが、それらは基本的に「魔法少女」を名乗っていない。
カードキャプターさくら
おジャ魔女どれみ
ふたりはプリキュア
どれも「魔法少女」として認識できるが、そのどれもが「魔法少女」の名を冠していない。
それも当然で、「魔法少女」というジャンル、職業を名前により規定してしまうと、枠が定まってしまうのだ。


魔法少女はこういうものである」と決めることは「魔法少女はこういうことをしない」と言うのと同じであり、単語化することではみ出した部分の味わいが消えるのである。中二病という言葉で矮小化されてしまったせいで、「中二病とは痛々しくネタにできるものである」と規定され、それ以前にあった「ポケットにカッターナイフを忍ばせる」だとか「周囲への理由なき怒り」だとか、そういった繊細な思春期の情動が切り落とされ、すべて恥ずかしいものであると決定されてしまったのと同じだ。


魔法少女」とは女の子に向けたものであり、良いお嫁さんだとか家庭を守るものだとか、忌むべき古きお題目の型に嵌められがちなセクシャルに対する「新しい選択肢」として可能性を広げようとした作品群でもある。だからこそ、作品はそれぞれに新しい職業名をつけたりして新しい世界への道案内をしようとしている面がある。


なのに、「魔法少女モノ」とはそれら総てをひっくるめて「魔法少女」と総称してしまい、中二病と同じようにラベリングしたうえで展開する作品だ。元ネタである魔法少女にあった味わいをそぎ落とし、それらが積み上げてきたジャンルの文脈を無視して要素要素だけを借用したジャンル。そして概念を借りるときに、メタレベルからのアプローチにより説明を省略するためだけに使われる用語。それこそが「魔法少女」という4文字であり、形のないものに名前をつけて概念を借用するものこそが魔法少女モノなのである*1


よって、魔法少女モノは魔法少女を名乗っている時点で「魔法少女」になり得ない、形だけの魔法少女にしかなれないのだが、この辺りのすれ違いを意識して作っている魔法少女モノの書き手はどの程度いるのだろうか、とふと思ったりした。

*1:それでも俺は魔法少女モノで抜くけどね。